完結編を待ちつつ読みたい石ノ森萬画【完結編準備編】



『幻魔大戦』
★★★★★★★★★★★★★★★★
(1967年 週刊少年マガジン連載。原作:平井和正、石森章太郎・いずみあすか*)
*赤塚不二夫、水野英子との共同PN。他にもUマイア、石塚不二太郎などの合作PNが存在していた。
秋田書店サンデーコミックス:全2巻/扶桑社文庫:全2巻/他


★ダイジェスト★

代々超能力者の家系(ジーベンビュルゲン家)の血を引くルーナ王女
彼女が乗った旅客機が四散し、海へと落下する途中、彼女は異星の超能力者「フロイ」の声を聞く…

<地球上の超能力者を集めて“幻魔”に対抗せよ>

“幻魔”とは邪悪な心を持った宇宙意識だった。それが全宇宙を侵略しているのだ。
その魔の手が地球にも伸びようとしていた。
落下した海上で遭遇した異星の戦闘サイボーグ ベガとともに、
彼女はエスパーをサルベージするために旅立った。

NYスラム街の黒人少年サンボ、そして姉コンプレックスの少年 東丈(あずま じょう)…。
ルーナ達にサルベージされた彼らは姉の死等の試練を乗り越え、ルーナたちと…
そして、彼らと精神感応した地球上のエスパー達と共に“幻魔”に立ち向かう。

【緋鳥記】

         



★入手状況(2003年12月現在)★

秋田書店サンデーコミックス版扶桑社文庫版が比較的入手しやすいと思います。
両者とも1冊200円から350円程度で、まめに探せば古本屋さんで入手可能です。

【緋鳥記】



新刊で購入可能。秋田書店 サンデーコミックス:全2巻 各490円
扶桑社文庫:全2巻 各550円

【人参のしっぽ記】



★ここがオススメ!!★

石ノ森SFの「敵」が、それまでの科学力を背景にした相手から、
人智を越えた強大な存在に転換するきっかけとなった、エポックメイキング的作品。

全くの未完にも拘わらず★5つとした理由は、相手のスケールの大きさです。
(全宇宙の支配を目論む云々・・・という「動機」はちと古くさいけどさ)
これ、完結編について個人的にこだわっているので・・・・。

その点で今回の推薦各作品中、私が満足出来たのは、この作品と『リュウの道』だけでした。
(「ホームレスの宇宙人or異次元人」や「誇大妄想のマッドサイエンティスト」、
なんてのは小粒過ぎていや〜)

完結編の相手は強大で雄大で壮大で・・とにかくデカくあって欲しい!!
のですが、アニメ化の場合、BGのボスを「アイドル・スカールさま〜」にしてしまった
平ゼロのスタッフにこれを望むのは無理かも(苦笑)

主人公、東丈を始めとする地球の超能力者達は皆、魅力的な悩める等身大石ノ森キャラ。
最初はみんなかなりやな奴だったのですが、それぞれが闘いの中で成長する姿に共感しました。
超能力の描写も昔の作品のためか、スケールは大きくても、シンプルで
余り精神世界に走らず、SF素人にも判りやすいです。
余りに難解な闘いになると009オタクしか頑張ってついて行かないだろうから、
私はこんな感じの超能力アクション描写を「イチオシ」です。

【まつもと記:評価★★★★★】


              



キャラクターデザイン大友克洋 りんたろう監督 アニメ『幻魔大戦』の原作としておなじみ。
SF作家平井和正との合作 一大SFストーリーです。

執筆は1960年代と初期のため、作風ペンは丸っこくシンプル。
映画版よりもストーリー構成、設定ともに原作のほうが解りやすくて好き。
大友氏もファンですよ、『AKIRA』大好き。映画公開時はすごく期待して喜んだものです。
ただヒロインのプリンセス・ルーナは原作とても可憐で勇ましいのに、
なんで大友キャラデになると無ひょ……コホゴホッ
サブキャラは良い出来だけに、最初主人公の作画美少年だわvとついカン違い(←コラコラ)

共通するのは、物語の主役。
ほんとはルーナ姫の臣下となった異星人サイボーグ戦士“ベガ”ではないのか(笑)
人格できてるし、常に冷静沈着で主人公 東丈の超能力指導もバッチリ。頼れる男は凛々しいっす。

幻魔大戦には様々な作品があり、最初のシリーズは『少年マガシン版』と呼ばれます。
少年マガジン版は主人公 東丈少年の成長物語といえます、
強大な超能力に目覚めた彼は生意気で傲慢な高校生。
その彼が幻魔と戦ううちに命を思いやる心に気づくのです。
溶岩流のなか、小鹿を抱いて苦悩する場面は秀逸。
ラスト ルーナ姫の台詞を個人的には完結編でフランソワーズに言わせたい… (^.^)

石ノ森オリジナル作品『幻魔大戦 神話前夜の章』(TV版アニメ原作:NTT出版全2巻)
平井和正との再度合作『新幻魔大戦』(徳間書店全2巻)
これらも通して読まれるとより世界観が広がります。上記とは別物語でまた違う面白さ (*^^)v

【人参のしっぽ記:評価★★★★☆】


      



別冊新評1978年秋号:平井和正・豊田有恒集にあるご自身の言葉によると、
幻魔大戦は単なる原作ものではなく、石森先生側の意見もかなり反映されているようです。
この作品は平井和正氏の小説によって壮大な世界観が構築されていくわけですが、
個人的には石森版のほうが平井版よりも好きです。

平井版と決定的に違うのはルーナと丈の仲でしょう。
初期のころこそ傲慢な人種差別主義者風に振舞うルーナですが、
1巻の最後の頃からは急にしおらしく可愛い女の子になっていきます。

   「東 丈&ルーナ姫」illustrated by 緋鳥


そしてクライマックス…
『丈!あたしがいます。世界中のだれよりもあなたを愛しているあたしがいますっ。
おお丈!あたしのだいじな人…!』とカミングアウトするルーナ。
そしてそれを受け入れ、ルーナの手をしっかり握り、他のエスパー達とともに
“幻魔”と対峙する東丈。
結末は描かれていませんが、二人はとても幸せそうでした。

それから“幻魔”を迎え撃つ為に世界各地から終結してくるエスパー群の中には…
イワン坊や、そしてミュータントサブ、猿飛エッちゃんらも混ざっていました(笑)

SFマガジンで連載されていた『新幻魔大戦』はパラレルワールドもので、
未完ですが舞台が江戸時代の日本がメインとなります。
人類の救世主たる「東丈」が存在しない世界… 幻魔に滅ぼされてしまった世界…
本来いるべき人類の救世主「東丈」の家系を「創世」する為、
トランシルヴァニア王国ルーナ女王の娘ビアとリス王女は
タイムトリーパー「お時」を1999年の世界から江戸時代の日本へ派遣する…すごく面白いです。

徳間書店刊の『リュウ』に連載されていた『幻魔大戦 神話前夜の章』
また違った世界観の物語です。
最近OVA化されたので映像としてみることが可能です。
(アルテミス似のキャラ、ミーナが出てきます)

【緋鳥記:評価★★★★☆】


         


最初に読んだ時、実は評価低かったんです(^_^;)

理由その1:ええっここで終わるの? というラスト
理由その2:その昔、小説版に挫折した
理由その3:同じくその昔、映画版がいまひとつ好きでなかった

(映画版については最近見返して、ベガのクールなカッコ良さ、
背景のリアルさ、そして超能力表現の面白さに再評価高まりました。
やっぱ大友さんはキャラよりメカと瓦礫っすね!)

illustrated by るな



ですが今回、「主人公東丈の成長物語として読む」というヒントをいただいて、
そのように読み直してみたところ、なるほど!!
丈少年の、コンプレックスや挫折感を乗り越えていく心の動きが
上手く表現されているなぁと思いました。

秀逸なのは、やはり姉弟の関係です。
石ノ森先生は、自分をずっと応援してくれていたお姉さんを早くに亡くされて
いるんですよね...。姉弟のモチーフは他作品でも何度も取り上げられていますが、
特に『幻魔大戦』では、丈少年が何度も石ノ森先生ご自身と重なって見えました。

結局、幻魔と戦うとは、自分の心と戦うことなんだと思います。
きっと石ノ森先生は、『神々との闘い』もそういう展開にするつもりだったのでは...?

【るな記:評価★★★☆☆】

 

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