「いいところね」 頬杖ついて夜空を見上げながらフランソワーズは、ささやいた。 「うん」 彼女に寄り添ってジョーも一緒に星を見上げている。 海辺の貸別荘で3日間、ふたりで過ごす夏休み。 この地方では今宵が七夕で、旧暦にあわせているらしい。 明日は夏祭り。明後日には花火を見て。 「浴衣もちゃんと持ってきたし」 フランソワーズは楽しげにウフッと笑みをこぼす。 海の景色もいろいろね。 研究所から見えるいつもの海と、ここはまた違う感じ。 湾になっているからかしら、ひっそりと、ゆるやかな波音が届くわ。 向こう岸の山々や遠くに見える島影に、そっと抱かれてるような海。 「気に入ってくれて良かったよ」 ジョーは、満足そうに微笑んだ。 山には、今度イワンが目を覚ましたら皆でキャンプに行くからね。 だから、ここに決めたんだ。 行き帰りのドライブにも丁度良い距離だし。 彼は彼女の横顔をそっと見つめる。 少し早めの夕食で、よく冷えた白ワインを飲んだせいか、 フランソワーズは、ほのかに酔っているようだった。 小鳥がさえずるように機嫌良くしゃべるのが可愛らしい。 白い肌が、ほんのり色づいていて、さっき食べた桃みたいだ。 宵闇に現れた星たちが、どんどん数を増していって、 ひとつひとつの星の光も、いつもより大きく見える気がした。 「織姫星と彦星、見つけたわ」 「……」 ふたりとも少し黙って星を眺める。 しばらくして、ふと思いついたようにフランソワーズが話しかけてきた。 「みんな違う時間なのね……」 「え?」 「星の光のこと」 「あぁ」 「ずっと知っていたはずなのに、こんなふうに感じたの初めてよ」 うまく言えないけど…と彼女は少し目を細めて言葉を続けた。 「ひとつの夜空に無数の時間があるなんて……」 あの星の光は何百年前の? あの星は何千年? 天の川のひとつぶひとつぶだって、みんなみんな違う時間。 「うん」 ぼくも同じこと考えたことあるよ、と、ジョーが言う。 「宇宙の奥行き…っていうか、底知れなさみたいなのがワッと押し寄せてきてさ」 星空は、あたりまえに、さりげなく、ぼくらの上に広がっているけれど、 それは、とてつもないことだよね。 今夜…散りばめられた星の時間が、ふたりのなかで、ひとつになる。 「さっき一瞬、夜空に吸い込まれてしまいそうで怖かったの」 ほんの少し甘えた声で彼女はささやいた。 「でも今は大丈夫。ジョーの腕がしっかり支えてくれてるもの……」 ウフフ…と、ふたりは笑みを交わして再び夜空を見上げた。 今夜は、ぼくたちのことを願おうよ。 こんな時間が永く続くように。 ぼくらが、ゆったり過ごせるときは、世界もとりあえず平穏だってことだから。 夜明け前には、きみにプレゼントしたあの星も見えるかもしれないね。 そう、恋人たちの時間は、まだまだ始まったばかり…… 『今宵ふたりで夏の星を』 - fin - 星祭り限定のトップイラストに、レイコさんがSSを付けてくださいました(≧▽≦) イラストは、もともといわゆるスケブ絵です。 (サイト掲載にあたりCG加工しましたので、原画とはかなり趣が違います) それにこんな奥行きのある物語を〜〜〜ありがとうございました! 文中に出てくる“きみにプレゼントしたあの星”は、 拙作『星のプレゼント』をご参照くださいねvv 暑い夏の夜が、さらにアツ〜〜〜く・・・なったかな? ★ BGM: THE YELLOW MONKEY 『BRILLIANT WORLD』 |