Daybreak from csp311さま 前編









 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚… それらが全て判然としない中、ただ

一つの事を思い、原始の海をたゆたい続ける…。



(生きる…)

 おぼろげながらも自分が海を泳いでいるのを自覚する…。

(僕は自由だ、この鰭を使ってどこまでも泳いでいける… 頭上に差し込む

光… あの青い光は一体なんだろう?)

 その光を目指して泳ぐ…。



(苦しい…)

 今まで、自分を自由に行動させていた鰭…。しかし、ここでは重たい体を

引きずるのがやっとだった。

 そして、今までの世界では青く優しかったあの光が、彼の体をじりじりと

焼いていく。

(それでも僕は行きたい… あの<緑の世界>へ…)

 彼はゆっくりと、川の中から重たい体をちゃちな鰭を使って引きずり出し、

森の中へと静かに消えていった。





(この森の外には何があるのだろう?)

 彼は高い木の上から大きな森を一望していた。

 猛獣達の跋扈するサバンナ…。安穏とした豊かな森を捨ててまでも彼は森の

外を見てみたかった。

 木を降りて地面を進む…。木陰が太陽の光を遮って涼しい森の空気…。

 彼はとうとう、巨大な森の端に到達した。

 目の前には潅木や低い木しかない、荒涼としたサバンナが広がっていた。

 じりじりと照りつける太陽… しかし、彼は遥かその先に豊かに水を湛えた

湖とさらに大きな森があるのを見つけた。

(あそこへ行ってみたい…)

 彼はゆっくりと立ち上がり、後ろ足だけの2足歩行でよたよたと「旅」を始めた。





(何なんだあれは!?)

 1人歩く彼の頭上に、忽然と銀色の飛行物体群が現れた。

 編隊を組んだそれらは上空から彼に『光』を照射した。

 彼は気を失った。



 気が付くと、剣を持った男が彼を見ていた。

 彼はその男が自分に似ていると思った。

 血の雫が滴り落ちる剣… その男の足元には1組の男女の遺骸が

 転がっていた。



(誰だ? お前は!)

(だれだ? おまえは!)

(ダレダ? オマエハ!)



<俺はお前…>

<おれはおまえ…>

<オレハオマエ…>



 逆光… 男の眼だけがギラギラ光っていた。

 その男の目を見ているうち、彼の意識は次第に遠退いていった。



 彼が再び気が付くと、頭が冴え渡り、今までと物事が違って見える

ようになったのが分った。



(寒い…)

 彼がいた大きな森も、サバンナも今は白い雪で覆われていた。

 仲間はただ震えているだけだった。

 彼が何気無く放り投げた石… それは別な石にあたって火花が飛び散った。

 彼は面白がって何度もその2つの石を打ち付けて遊んだ。

 そしてそのうちに、その火花が近くの枯草に飛び散り、燃え出した。

(暖かい!)

 試行錯誤の末、彼は自在に火を起こす術を身に付けた。



 それ以降、様々な<知恵>が降ってくるように彼の頭を埋め尽くした。

 弓矢、槍、石器、衣服…。

 彼は自慢の弓を猪に向け、徐に矢を放った。

 急所を射貫かれた猪はもんどりうって倒れた。

 さらに、集団戦法という戦術を編み出すと、彼の矢はマンモスさえも

討ち取った。やがて、彼の矢は自分達の仲間さえも倒すようになった。



 数多の闘いの後、やがて彼は『王』となった。



 大地に1人立つ彼…。

 彼は天に向かって、矢を放った。



 彼の放った矢は、次第に太く、大きくなり、『大陸間弾道弾』へと

変貌していき、最後に眩く輝いた。



 そしてその輝きは彼の視界全てを覆い尽くした。





(きれいだ…)

 再び意識を戻した彼はその時、彼は成層圏よりもさらに上の宇宙空間に

浮かんでいた。

 そして、眼下に青く輝く地球に暫らく見惚れていたが、彼はその表面に

無数の煌きが出現したのに気付いた。







 illustrated by csp311






(あの光は??)

“ワタシガ予知シタ未来ノいめーじダ”

“神ノ介入ガ無クトモ、我々人類ハ滅ンデシマウ運命ダッタ…”



(あの時、<知恵>を得て作った『矢』が…)

(イワン!? まだ間に合うだろうか?)

“ノコサレテイル時間ハ少ナイゾ”



(僕たちがやるべきこと…)



“自己ヲ超エタ偉大ナモノヲ生ムタメニ自己ヲ犠牲トスル…”



(それが僕たちの役目なんだな…)



五感を超越した状態… その時、彼ら9人は1つとなっていた





 ***************





―― 繰り返します、某国某所の中心として大規模な爆発があり、それに伴って

ペルシャ湾に展開していた国連艦隊及び、某国内に展開されていた

国連軍地上部隊が壊滅的損害を被った模様です! 現在、現地上空は

オーロラ状の異常気象現象に覆われ、殆んどの電子機器の使用が不能と

なっています…  おおぉ、神よ… お慈悲を… ――



 しかし、それは序章に過ぎなかった。主要各国の首都上空には巨大な葉巻型

の宇宙母艦とその艦載機らしき円盤機の大編隊が出現し、世界中が大パニック

となった。



 各国の海、空軍は全ての航空兵力及び、通常弾頭のみならず、核弾頭を装備

した迎撃ミサイルでこれに応戦したが、全てそれらは自国内に落下するという最悪

の結果を招いた。

 やがて、各国の空しい抵抗が収束するや、無数の異星人の円盤機は世界各地へ

散開していった。





「ああっ!円盤が…」

 その時、小松玲子は津軽、秋田北部地方に点在する遺跡の1つである大湯の

『環状列石』を訪れていた。

 玲子はただただ立ち尽くし、目の前の事象を見つめるだけだった…。

 無数の円盤機は日本国内の古代遺跡上空全てに飛来していた。

 暫らくの間、円盤機は沈黙していたが、唐突に『柱状列石』に向けて高

エネルギー波を照射した。

 しかし同時に、『柱状列石』もまた眩い光を放ち、電磁フィールドのような物を

形成し、間近にいた小松玲子をも取り込んでしまった。

「ああ〜っ、お父様!!…」

 その時、彼女は反射的に父を想ったと同時に、「あの男」のことを思い出していた。

(島村さん…)



 やがて、『環状列石』が放った光は収束したが、彼女の姿は忽然とどこかへ

消えていた。





 00ナンバーズたちが観ていたテレビのブラウン管は、一面銀世界の『津軽平野』

に飛来した無数の円盤機の映像を映し出していた。





「御出でなすったな、神様め…」

「<シュメールの遺跡>の大爆発は、大気圏外から高エネルギー波照射か?」

「そうよ、あの母艦から来たの。あの光は…」

(アンロックが早すぎた… まあいい、<あれ>1つだけじゃない)

「おい、ジョウ、これからどうするんだ?」

「僕たちが 『行くべき場所』 へ行く」



「それはどこだ?」

「ジョウ!」

「ジョウ…」

「…」



 illustrated by csp311




「…さあ、行こう、チベットへ





 メンバー達が見守る中…徐にジョウはそう言った。

「チ、チベット??? 一体どうやって行くアルか?」

「ふふ… まだ気付かないの? 『心の旅』で私たちはその術を習得

したじゃない、大人」

「俺たち… <仲間>」

「そうだ。我々は9人が一体となった<運命共同体>だ」

“サア、皆デ いめーじ スルンダ”



― Fly us to the Tibet!−



その瞬間、彼らは研究所から姿を消した。





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