恋愛事情 from 繭さま



「ところで、島村って彼女いるの?」



さっきまでの話題とはうって変わった詩織さんの唐突な質問に面喰らってしまった。

まさか、与那国へ向かう船の上でこんなこと聞かれるとは…。



「あ、なんか悪い事聞いたかしら?」

「いえ…そんなことはないですけれど。

ただ、今までそんな類いのこと聞かれた事がないもんで…。」

「ふ〜ん、そうなんだ。」



少し納得したかのような顔をして詩織さんはこう続ける。

「…ま、確かに島村って最初、少し取っ付きにくいところがあったもんね。」



そして

「…で、どうなの?」

と、あっけらかんと突っ込んでくる。



この人、外見はすごく女の子おんなのこしている割に、性格は男っぽいっていうか…

でも何だろう。この人には話せる範囲できちんと伝えたほうがよい感じがする。



「まぁ…いますよ。一応は。」

「あら。あっさりと言ってくれるのね。彼女がいても否定するタイプかと思ってたのに。」

「聞いておいてなんですか、それ。言わなきゃよかった。」

「あ〜、ごめんごめん。いたからどうとか言うんじゃないんだけどね。」

「失礼だな〜。」

でも、そんなに悪い気はしなかった。



「でもね、いくら研究室の助手としてとはいえ、長期不在にするんじゃ

彼女も嫌だろうなぁって…あ、これって余計なお世話よね。」

「いいですよ、別に。今、彼女も日本にいないし。」

「え?いないの?」

「ええ。彼女、今1年契約でルーブルの臨時職員として働いていまして。」

「ルーブルって、パリのルーブル美術館!?」

「ええ…。」

「はぁ〜。あなたの彼女って才媛なのね!ルーブルで働けるなんて!」

かなり驚いたのか、詩織さんは目を丸くしている。



「当然、フランス語も堪能な訳よね。すごいなぁ〜。」

「堪能…っていうか、彼女、フランス人なんで…。」

「えええっ!なにそれ〜っ!!」



開いた口が塞がらないって、こういう状態の事なんだろうなと

詩織さんの顔を見たとき、そう思ってしまった。

やはり言うべきことではなかったのだろうか…。



「いや〜、島村、あんたって面白いっていうか凄いっていうか…

なんかバラエティに富んでない?」

「そうですか…?」

ま、たしかに僕のまわりにはバラエティにとんだ人間が多い事は事実だけど。



「それでフランスに…。じゃ、国際的な遠恋って訳ね。」

「国際的って…、まぁ、確かにそうですけど。」

今までこんな風に自分の立場を評価されたことがないので、内心うろたえる。

「でもよく承知したわね。国に帰っちゃったら、戻ってこないかもしれないんじゃない?」

「いや、まぁ、その…。」



アルベルトがフランソワーズにルーブル行きの話を打診してきた時、僕は正直困惑した。

まさか彼女が乗り気になるとは思わなかったし、彼女が僕のそばにいるという生活を

当たり前と思いこんでいただけに、あの時、言葉こそ出なかったが

あからさまに『反対!』という態度が表面に出た。

しかし、さすがに『戻ってこない』とまでは考えてもみなかった。



「ふふ。ひょっとして動揺してる?」

「あ…いえ、御心配なく。先日向こうにいってきたばかりですから。」

「あ、はいはい。ごちそうさまでした〜。」

なんだかおちょくられているようだ。相手が相手だけにどうも調子が悪い。

軽いため息。



「で、彼女とはどういう経緯で知り合ったの?」

「そこまで聞くんですか?」

「だって、彼女の事聞いたからには知りたいじゃない!」

聞いて当然!という具合に詩織さんはにっこりと微笑む。

「…別にどうって事もないですよ。僕がお世話になっている博士のところに

彼女が居ただけのことですから。」

「博士って…、あの生体工学のDr.ギルモア?」

「ええ、そうです。」

僕はギルモア博士の紹介でこの研究室に入った。

そうでなければいきなりこの調査隊のメンバーにはなれなかっただろう。

「そうなんだ。な〜んとなく納得。」

やっぱり、外国人の彼女がいるっていうのは違和感があるのかな。

ふと自分の小さな頃にまわりの人達が自分に向けた視線を思い出す。



「でもDr.ギルモアのところにいるのなら、どうして生体工学じゃなくて

こんな考古学の研究室にきたの?」

ふいに話題が変わったので、ちょっとホッとした。

「将来的には正式に博士のアシスタントに就こうとは思ってますけれど…。

ただ、以前博士とエジプトに行った時に遺跡にも興味を持ったんで、できれば

考古学の方も勉強したいというか…。」

「ふ〜ん。不思議くん自体が不思議好きなんだ。」



だめだ。完全におちょくられてる。



「ああ、ごめんごめん。私だって似たような理由でここにいる訳だし。

でもこれで安心して島村とコミュニケーションがとれるわ。

…実を言うと今回の調査に島村が入るって事で、

研究室の女の子達からかなりやっかまれたんだ、私。」

「え?」

「結構女の子に人気あるのよ、島村くん!」

さすがに僕が閉口したのを察して、彼女は笑ってフォローする。



「ま、翡翠もいることだし、今回の調査、さっさと終わらせて帰りましょうね。」

そういうと僕の方をポンとたたいて、詩織さんは船室へ戻った。



「翡翠さん…か。」

急に現実に引き戻された感覚になった。

どうも僕が関わる事には何かしらただじゃ済まないような傾向がある。

まぁ、なんだかんだ言いつつ、僕たち自身も最近ではそれを楽しむ余裕も出てきてはいるかもな。

そんなこと思うのはちょっと不謹慎かな。フフ。



フランソワーズ、君はどう思うんだろう。

この間会った時は、パリで送る普通の女の子としての生活がとても楽しそうだったけれど。

契約期間が終わったら、果たして君は僕の所に戻ってくれるのだろうか。

いや、きっとその前に君はやってくるのかも、僕たちのところへ。



あてずっぽうにそんな事を考えていた。それは予感とはまったく別の次元で。

そんな僕たちの多少不確実な恋愛事情。

まさかこれからが長い戦いの幕開けとは気づきもせずに…。







繭さん、ありがとうございました!

ジョーと詩織さんと一緒に、与那国行きのクルージングしてる気分になれますね♪

読みながら、あの詩織さんの微妙な髪型が脳裏に浮かんで、浮かんで(笑)

私も横から二人に突っ込みたいっす(爆)


とニコニコ読んでいたら・・・忍び来る『最後の戦い』の影。

この辺の展開具合が、やっぱりゼロナイだよなぁと思います。流石です〜。





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