怖れないで、フランソワーズ。
きみに導かれて、僕は飛び込む。
きみが見た、一瞬の幻。
悪夢と現実の狭間で揺れるヴィジョン。
僕は走る。
きみの悪夢を夢に戻すために。
どんなに走っても、きみには追いつけない。
きみが悪夢を見ることを、僕には止められない。
でも、それは未来なんかじゃない。
僕がいるかぎり。
怖れないで、フランソワーズ。
僕はきみに追いつけない。
だから、信じてほしい。
それは未来なんかじゃない。
僕が夢に戻す。
必ず、戻すから。
きみを守ることは、きみの傍にいることだと長い間思っていた。
でも、それは違う。
僕は、きみを離れる。
時空を駆け抜け、きみの悪夢に飛び込む。
でも、大丈夫、僕を信じて。
どんなに恐ろしいモノも、どんなに忌まわしい悲劇も、僕が夢に戻す。
だから、きみは目を開いて。
怖れないで。
私が見るものは、いつも悲しく恐ろしい悪夢。
そして、そのただ中へと駆けるあなたの背中。
大丈夫。
あなたは大丈夫。
そう祈りながら、私はあなたの背中を押す。
愛しているなら…
ふと思う。
もし、愛しているなら、私は目を閉じればいいのかもしれない。
目を塞ぎ、耳を塞いで、あなたを抱きしめればいいのかもしれない。
ただあなたを感じて。
ただ私を与えて。
そうして二人抱き合って、最後の時を待てばいいのかもしれない。
もし、愛しているなら。
信じて、フランソワーズ。
僕は、大丈夫だから。
あなたが囁く。
きみが見たものを僕に教えて。
怖れないで。
それは夢だ。
命を落とすことは怖くない。
あの悪夢にのみこまれることさえ。
世界が終っても、きっと私は嘆かない。
私が怖いのは…
悪夢に向かって駆け去っていくあなたの背中。
それだけなの。
だったら、何も怖れなくていい、
あなたが囁く。
きみが怖れることが、ただそれだけだというのなら。
それなら、僕が守ることができる。
必ず、守るから。
あなたは誓い、駆け出す。
私に、背を向けて。
あとは、勇気だけだと思っていた。
でも、それは僕だけのものではない。
きみのまなざし。
きみの、強い視線。
きみに守られて、僕は勇気を手にする。
だから…きみも。
僕を信じて。
勇気は、そこにある。
僕は倒れない。きみがいるかぎり。
だから、きみも倒れない。
僕がいるかぎり。
怖れないで、フランソワーズ。
すべてを見て、すべてを僕に教えて。
きみから遠く離れた時空へと駆け、僕はすべてを夢に戻す。
きみに還るために。
僕はきみに追いつけない。永遠に。
でも、僕は走る。
きみに還るために。
諦めない。
諦めないよ、フランソワーズ。
きみがいる限り。
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