Berlin
−平ゼロ第32話『機々械々』より−  by 繭さま




繭さんとのコラボレーション、『4つのお題』のラストでございます!

平ゼロ『機々械々』で、ドイツを旅する93ギルモア博士♪

6のかいがいしい奥様っぷりと、4様の爆笑っぷりが印象的なこの回でありましたが
(作画のおっとっとぷりも^_^;)
繭さんどんなふうに料理してくださったでしょう?

今回は、書き下ろしのイラストに加えて、原レポ『ハインリヒを探せ!!@ベルリン』
に掲載した写真で構成してみました。では、よい旅を・・・。









聞こえて来る言語、目に飛び込んで来るサイン。

母国のものではないけれど、確かにここは西欧圏で私の故里に近い場所。

この風景はなんとなく私を落ち着かせてくれる。



そんなことをぼんやりと思いながら空港の周囲を眺めていたのに。



お気楽な気分はすぐに失せた。

機内でもなんとなくそわそわしていた博士は、税関を抜けるとすぐさま電話ボックスに走り、

私の左側でぐっすりと寝入っていたジョーも、なにやら落ち着かぬ風情でパスポートに視線を落とす。



そして…



空港へ迎えに来てるはずのアルベルトがどこにもいない。





「…ダメ。家は留守電、携帯は不通。通信回線も遮断されているわ。」

「近くにはいない?」

「そうね…さっきからスキャンしているけれど、半径10km以内には…気配なし。」

「まいったのう。仕方あるまい、取りあえず宿へ向かうか。」

タクシーに乗り込み、予約を入れたホテル名を告げる。





****************





どっしりとした趣のホテルのロビーは吹き抜けになっていて天窓からの日射しがまぶしい。



「すまんが、チェックインの手続きを頼むわい。」

そう言うと、博士はまた電話へ向かう。

一方ジョーは、なんとも頼り無げにロビーに立ち尽くしている。

「いいわ。私がやるから。」



軽くため息ひとつ。



なんだろ、こんなハズではなかったのに。



めずらしく張大人がイワンの面倒をみてくれると言ってくれたから。

非常事態じゃない、お留守番じゃない、博士のお供とはいえ久々の海外。

ジョーも一緒。アルベルトにも会える。

ちょっと楽しみにしていたのに…





「はい、部屋のカギ。博士とジョーは8F、私は6Fになります。」

記帳を済ませ、電話を終えた博士とジョーにカギを渡す。



「お荷物はこれで全部ですか?マドモアゼル。」

「ウイ。あ、そのトランクは私のですので6Fにお願いします。」

「かしこまりました。ではお部屋にご案内致します。」



これじゃ、まるで私、ツアーの添乗員だわ。





「わしは明日の準備もあるからこのまま部屋におるよ。二人で観光でもしておいで。」

エレベーターの中で博士がそう話しかけてきた。

でもなんだか心ここにあらずという感じ。

「わかりました。ハインリヒから連絡が入りましたら、お電話しますね、博士。

じゃ、ジョー、30分後にロビーで。」

「うん。わかった。」



「みなさん凄いですね。英語と日本語をお話しなのに通じていらっしゃるんですね。」

「え!…ああ、長年の付き合いで時々入り乱れるんですよ。」



ポーターの発言で、改めて自分達が自動翻訳を通じて会話している事実に気づく。

もっとも、博士との会話は互いに意識して英語で会話していたけれど。



普段意識していない故の見えない距離…そんなものを感じた。



「ではここで。どうぞごゆっくり。」

「ありがとう。お世話になります。」





****************





「どう?少しは落ち着いた?」



ホテルを出て、あてもなくベルリンの町を散策。

目が泳いでいたかのようなジョーの表情も次第に穏やかになってきた。





「ごめん。実をいうとさ、ドルフィン以外の手段で海外に出たの初めてだったから…

なんか、いちいち、まごついちゃって。」

「確かに、日本とはかなり勝手も違うわよね。」

「うん。そう言えば、これまで日本以外での場所で買い出しとかにも出た事なかったし。

それに…。」

「何?」

「博士とイワンのお陰で、無事、税関や搭乗時のチェックも普通にパスできたと思うと。」

「…そう、そうよね。確かに。」





全身機械に覆われた私たち。しかもパスポートは当然偽造。

普通であれば私たちのようなものは簡単に飛行機などのるものではない。



日本に残った私たちはあまり意識していなかったけれど

自国に戻ったメンバーはメンテナンスの度にそういったリスクを背負ってやってきていたのだ。

その意味では本当に博士とイワンの努力の賜物があってのこと。





けどみんな、そうまでして本当に自国に戻る必要があったのかしら…。





BGとの戦いが終わりを告げた時、今後の身の振り方をどうするかという話になった。

その時は日本に残る人、自国に帰る人それぞれが新しい生活に心弾ませていたけれど

私は最後の最後まで答を決めかねていた。



パリで暮らしたいという気持ちはなくもない。けれど体はそれを拒否していた。



過去の亡霊におびえたあの冬の日を思い出すと、足がすくむ。

そして…帰るべき家は当然…ない。



それは今も同じ。



結局イワンの面倒をみるという大義名分のもと、日本に留まることを決めた時

私は心のどこかでほっとしていた。





「ごめん。気を悪くした?」

「あ、…ううん。ちょっとぼぉっとしていたわ。」

「疲れた?すこしどこかで休もうか。」

「そうね。それにアルベルトの居場所も調べたいし…。」



そう言って顔をあげた視線の先に飛び込んで来たのは-----

かつてこの通りを囲っていた「壁」であったものの残骸。



記念碑的に残されたそれには、カラフルな落書きが一面に施され、

観光客の写真スポットとなっていた。





それを目にした時、私のなかで忘れ去られていたパズルのかけらが

ピタッとあてはまったような感覚がふいに沸き起こる。





『ヒルダ…。』



それは激しい頭痛と薄れいく意識の中で耳に飛び込んできた004のつぶやき。

そう、あれはBGの新たな刺客と戦って、キズを負いながら決着をつけた彼が

自身の過去と決別をつけていた瞬間。



限界を超えた索敵活動で、戦うことはおろか起き上がることすら出来ず

かといって休むことにも気がひけて、なんとか皆の為にレーダーになろうとしたあの時。

必死で出力をあげ、仲間の死闘に目を向け、敵が倒れるところを確認したあの時…。



胸元からとりだしたリングを見つめ、彼がつぶやいた一言。

その時、私はこれまで誰にも見せた事のなかった004の素顔を見たような気がした。





『ヒルダ…。』



それは、おそらく、彼の大切な、そして決して失ってはいけなかったヒトの名前。





BGにいた頃。第一世代と呼ばれる私達。

改造を終えた彼が初めて私の前に現れたのは、

壁を越えようとするたくさんの人々が、その前で命を落とす事が日常だった時代。



体の殆どが武器という名の機械。

「あの状態で生きているのが奇跡だ」という程、損傷の激しい検体だったという噂。



訓練中、翻訳機を通しながらも、耳に届く独語の響き。



あの当時、私にはこれという確証はなかったけれど、確信はあった。


コノヒトハ壁越エデ命ヲ落トシカケタヒトナノダ…。





『ヒルダ…。』








今は遺跡と化した辛い記憶の残骸が残るこの街。

アルベルト、ここであなたは、一体どんな思いで毎日を過ごしているの?

私より遥かに残酷な仕打ちを受ける事も承知の上で、

何故、なにもなかったような顔をして、当然のように自国に戻ることが出来たの?



何故…。



その時、突然通信回路がオンになった。

「悪いな。連絡が遅れて。」





**************************





「いい天気ね。」

ぶどう畑がみわたせる小高い丘。

心地よい開放感につられ、思いっきり伸びをする。



「試飲続きで酔っぱらったか?」

「私は大丈夫よ。ジョーの方を心配してあげて。」



そう言うと私は、珍しく陽気な声で「飲んだなぁ」と笑いながら

草むらに倒れ込んだジョーの方に目をやる。



「ふふ。昨日は随分緊張していたみたいだから。

カフェでチップを渡すのにもまごついていたのよ。」

「日本じゃ、チップとか、そんな習慣ないんだろ。」

笑いながらアルベルトはザックからガスストーブとコッヘルを取り出す。



「豪華ランチとはいかないが、軽く昼飯でも喰おうか。」

そういうと彼は手際よくストーブで湧かしたお湯の中にソーセージを投入し、

パンとチーズをスライスする。

「手慣れてるのね。道具も随分使いこんでいるし。」

「まあな。仕事柄、店のない処への移動も多いからな。遭難しかけたときもある。」

「遭難!?」

「いい教訓になったよ。今となってはな。」





昨日、やっと合流できた後の私達は、どこか変だった。

博士の妙なそわそわの原因が、アイロンのスイッチだったことを知った時の気の抜けよう。

間が持たない感じのままつづく、わたしのとんちんかんな発言。

それをなかば強引なオチに持込んで、不自然に大笑いするアルベルト。

なんともちぐはぐな会話がテーブルを囲んでいた。



聞きたい事は他にあるのに。

でも、この場では聞きようがない。そんな雰囲気が漂っていた。





「今日のお詫びに明日は1日案内するよ。行きたいところの希望はあるのかい?」



別れ際、アルベルトは一応、すまなそうにそう言った。

「そうね…じゃあ、観光名所っていうよりも、郊外に出たいわ。

ワイナリーがあれば嬉しいのだけれど。ジョーは、なにか希望ある?」

「いや、僕は…。みんなについていくよ。」

「相変わらず遠慮深いな。お前さんは。」

「ほっほっ。まぁ明日は皆で楽しんでくるがいい。じゃ、土産はワインじゃな。」

「ええ、楽しみにしてて下さいね、博士。」



そして今日、会議を控えた博士を会場まで送り

約束通り私達は午前中びっしりワインを堪能し、

この隣接するぶどう畑でひなたぼっこを楽しんでいた。





ソーセージとパンの軽い昼食を終え、

ポコポコとパーコレーターから珈琲が沸き上がる音を聞きながら

私とアルベルトは並んで腰をおろしている。



一方ジョーは、子犬を連れたドイツ人の老夫婦に囲まれ、なにやら楽しげに話し込んでいた。

「あぁ、すっかりはまってるな、あいつ。」

「ふふふ。珍しいわよね、あんな風に話し込むジョーって。」

「犬がじゃれあっている感じだな。」

私達もジョーをおかずに何気ない会話をつづけていた。

でも。



「ところでアルベルト。昨日、あの古城でなにがあったの?」



ここへくる途中、車窓からかなり遠くに見えた持ち主もわからない古城。



「…気づいていたのか。」

「ええ。だって、あの城が視界に入った時のあなた、微妙に動揺してたもの。

で、よく見てみたら硝煙反応と、破壊されたロボット2体。しかもあの外面…。」





彼はフッと笑った。

「そこまで見ているならわかるだろう。あれが、昨日遅れた原因だ。」

「…BG?」

「わからん。でも俺や博士を模したロボットってことは恐らくなんらかの…。」

「そうね。まさか…これまでにもあんなことはあった?」

「いや。」

「そう…。じゃ、今後は注意が必要ってことね。」

「だな。」





しばしの沈黙。

でも口火を切るのは私の方。



「日本に避難するという事は考えないの?」

「は?」

「って言うか、あんな事があっても、これからもひとりで切り抜けていく気?」

「ま、なるようになるさ。必要があればこちらからちゃんと連絡する。」

「今回は、私達の手が必要無かったって事?」

「…いや、それは…。…すまん。昨日はそんな余裕はなかったな、確かに。」



そう言うと、今度は少し自嘲気味に彼は鼻で笑う。



「…あ、ごめんなさい。何も非難するつもりじゃなかったの。

本当は…本当に聞きたかったのはちょっと違ってて…。」



言葉に詰まる。

確かに聞きたいことではあるような気はするけれど

果たしてそれは本当に聞いてみたいことなのかしら…?



「なんだ?」

私の沈黙にちょっと怪訝そうな、それでいて少し心配そうな目をして

アルベルトは私に問いを投げかける。

「いいから言ってみろよ。」



「…辛くはないの?…過去の出来事が色濃く残る街に暮らすのは…。」



いきなり、しかも予想もしていなかった内容の発言に、彼の表情が一気に曇る。

「なにか、知ってるのか?…。」









『ヒルダ…。』



私が聞いたのはその名前だけ。

あとは単なる憶測でしかない。

だから、これ以上の事はなにも、聞けない。









「…知らないわ。ただ、あなたが運ばれて来た時に

全身に銃弾が打ち込まれていたと言う事は噂で聞いていたけれど。」



「…。」



「私は、辛かった。あのクリスマスの晩、みんなが止めるのも聞かないで

ひとり出掛けたあの日一日だけで…もう十分だった。

確かに、私の過去はみんなに比べればきっと穏やかなものだけど。それでも…。

ねぇ、時が経てば自然に昇華されていくものなの?

…私達は確かにとんでもない時間を越えてしまったわ。けれど、でも…。」



いつの間にか、私の疑問は悲痛な叫びに変わっていく。



「…それでも、人は生きていくんだよな。」

…アルベルト?



大きく息を吸い込むと、ふっきれたような笑顔で彼は語る。



「確かに俺は一度死んだも同然の人間だ。

…わかってんだろう?俺があの壁を越えようとして、しくじったってことを。

そして…その時に起こった事も。」



「…。」



「本来なら、俺もあの記念館で展示されているような過去の人間だ。

しかしどういう訳か、今ここでこうして生かされている。しかも奇妙な格好で。」





彼は自分の右手を振りかざした。



「確かにここに戻った時には面喰らったな。自分の過去がモニュメントになっているんだぜ。

笑っちまうしかなかった…。

でも実際に、俺のように自分の過去が展示されているのを切ない顔で見つめていた

じいさんもいたよ。…本来なら俺もそんな年だ。

まぁ、俺は、ちょっと変わり種だが、戦争で命からがら助かった人間と同じもんだ。

彼等もまた、辛い過去を背負って、今を生きている。」



「アルベルト…。」



「…つまり、そういう事だ。いろいろあるけど、故郷から動けないだけの事だ。

だがな、ここの暮らしもそう悪いことばかりでも…ないのさ。」



そう言って、彼は空を見上げた。







風が…吹き抜けた。



ふたりの髪を揺らし、私のスカートの裾を軽くはためかせて。

すっと、背筋が伸びる感覚。



なんとなく彼の言わんとしていることが、解ったような。

そんな、生き方もある…と。

私の中にも心地よい風が吹き抜けた。



「お、煮詰まってしまうな。」

パーコレーターを火からおろすと、彼はおもむろに立ち上がって

ジョー達の方へ向かう。



さ、私もカップを用意しなくちゃね。




Hello.zou u koffie drinken?








ひさびさの第一世代な物語、いかがでした?

そ〜よね、平ゼロ9って初めての海外旅行じゃこんな感じよね(笑)

(きっと他の9ならお初でもそれなりにサマになるかと・・・;)

成田離婚にならないように、頑張れ〜〜〜〜〜っq(^▽^;)p゛





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