Daybreak from csp311さま 中編




 





――遠い昔… この銀河誕生直後のごく初期にこの銀河の中で発生した、ある高等生命

の後裔である『超意識体の集まり』がその枷である有機体の「身体」を捨て去り、

大宇宙への大航海を開始した――





――彼らの勢力が拡散して行くに伴い、彼らは、彼らと遭遇した彼ら以外の高等生命を、

段階別に自分達の超意識体連合』の傘下に取り込み、彼らは「銀河の覇者」とも言える

存在となっていった。そう、この銀河に於いて、彼らは<神>となったのだ――





――程なく彼らは一通り「銀河中心部」を平定し終えると、次に、辺境にある有望と

目される惑星を見つけ、それらに高等生物の種を蒔き、<文明>が発生するのを待ち、

新たな『高等生命の意識体』を刈取って自らの『連合』に組み込むという活動を積極的に

進めていった。君達の先祖もそういった種族の一つだった――





――我々はごく初期に<神>の傘下に入り、<神>に次ぐ存在として認められた

「惑星意識体」だったが、<神>の代わりに君たちの先祖の「監視者」としてこの

星域に派遣される事となった。「監視者」の報告に基づき、基準どおりに育たなかった

と<神>に判断された文明は容赦なく滅ぼすように指令されていた――





――「監視者」たる我々は君達の先祖の有り様を、<神>に報告した… その結果、

君たちの先祖は、<神>によって『削除対象』と判断された――





――我々はその前にも同様の経験を何度もしていた。<神>の基準に見合う全てに於いて

『等質な意識体』のみでこの銀河が満たされる事が、果たして好ましい事なのか?

我々は疑問に思った――





――確かに、君達の先祖は優秀とは言い難かった。しかし、荒削りながら秘めたる

可能性を感じた我々は、君達の先祖を抹殺するのは惜しいと感じていた――





――そして我々は幾度もの協議を重ねた結果、<神>に対して反旗を翻す事を決定した――



――我々は、タブーを破って監察対象のこの地球に降臨し、君達の先祖を遺伝子改造して

急速に人工進化させつつ、様々な<知恵>を与えた。本来実体のない我々は、君達の先祖

の畏怖心を利用する為に、『かつてこの惑星の覇者だった生物』…つまり恐竜を模した外観

の存在として接した。それは「翼竜」とも「羽根のある蛇」とも例えられた――



――かくして君達の先祖は、地上に降臨した我々を「神」として受け入れ、我々とともに

<ムー><レムリア><アトランティス>といった機動要塞として機能する“人工浮遊大陸”

を中心に高度な物質文明を構築するに至った――





――束の間の繁栄と平和だった――





――やがて<神>の討伐軍が到来し、我々と君達の先祖への掃討作戦が展開された――





――我々の切り札は、この星の<人類>に似せて遺伝子操作によって生み出した人造人間

「ネフィリム」だった。しかし、君らの先祖達は「ネフィリム」を充分に使いこなせるほどの

<ブリルの力>を持つには至らなかった――





――激しい攻防戦の末、我々は辛うじて<神>の討伐軍を殲滅したものの、レムリア、ムー、

アトランティスといった巨大空中要塞を失い、メソポタミア、チベット、南米の地下深くに

身を隠し、次の<神>の侵略に備え、永い眠りに入らざるを得なかった――





――しかし、<神>は抜かりが無かった。生き残った君達の先祖に<負の情報操作>を行い、

潜在意識に<破滅のプログラム>を植え込んで行ったのだ… その結果それは、<黒い幽霊団>

を成立させた――





――だが、同時に我々もまたそれに対抗するプログラムを遺していた――





――我々は信じていた。それによって君達のような存在が現れ、遂にはここに到達することを――










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 アーリマンの言葉がナンバーズ達の脳裏を駆け巡ったのはほんの一瞬であった。

 しかし、その一瞬で彼らは古代人類の滅亡の顛末を把握することが出来た。

 それはまさにアーリマンの過去を実際にトレースするように明確なものであった。





「『神は悪魔… 蛇…羽…』 それが小松博士の最後の言葉だった…」

 ジョウの脳裏に小松博士の断末魔の形相が過ぎった。

「博士はイースター島で真実を知った… そして、<神>に殺された。博士だけじゃない…

ノアという娘…あの一族は“長耳族”の生き残りだった」

「<言い伝え>が僕に漏れるのを恐れた<神>は彼女も…」

「なるほど。ハルマゲドンを自ら引き起こし、人類を救うどころか滅ぼそうとしている<神>…」

「ヨーロッパ中心の視点で考えると変かもしれないが、逆に蛇を神として祭る宗教も少なくない」

 ボソッとジェロニモが言った。

「アーリマン達が降臨した時にとった容姿、『羽根の生えた蛇』のような…実際は手足がありトカゲ

に似て、羽毛のある羽を持った蛇型の神… その名残がアステカやその他の神話…というわけか」

 グレートは腕を組み、人差し指で顎を摩った。

「ケツァルコアトルは<金星の神>でもあるという…」

 と、再びジェロニモ。

「金星… 明けの明星。英語でルシファー… 堕天使ルシファー!!」

「ルシファー、つまりはアーリマン!?」

 グレートは『なるほど』という表情で手を叩く。

「そうだ、キリスト教では両者は同義だからな」

 ジョウはグレートを見て言った。

「そして、アダムとイブに禁断の木の実を与えた蛇こそがルシファーだったという説もある」

「元天使の総大将 堕天使ルシファー… いやアーリマンが我々の友だと?」

 ハインリヒの目は冷ややかだった。





――我々を<堕天使、悪魔>と呼び、情報操作で君達の先祖の深層心理に負のイメージをつくったのは

<神>だ――






「それはそうなのかも知れない。しかし、アーリマン…『<羽根のあるトカゲ>のような容姿をもった

神』というのがどうも引っかかる。」

 俯きながらジョウは言った。

「その<容姿>は、過去に敵として戦った<ある生物>を思い出させるんだ」

「ザッタン…だな?」

 グレートが続く。

「そうか! あれはあんた達に関係があるのか?!」

 ハインリヒのテンションが上がった。





――空中要塞ムーやアトランティスが撃破され、海中に没した時、脱出ポッドで脱出した我々の仲間…

実体を手に入れ、この惑星に適合していった一部の者たちと君達の祖先の一部は、地下の巨大空間を発

見し、そこを『ヨミ』と名付け地下帝国を創り、生きる為に悲しい共生関係を作り上げた――






「あ、あああ… ザッタンって貴方達の仲間の子孫なのか?? そしてプワワーク人もまた現世人類と同

じルーツをもつ仲間だった、という訳か!?」

「なんてことだ! あれが… あれが、共通の敵とかつて一緒に戦った仲間同士の成れの果てだったと

いうのか!」

 顔面蒼白になるグレートとピュンマ。

「食料資源の乏しい地下で両者が生き抜くために、『神』であったザッタンの餌という存在に成り果て

たのがプワワーク人… なんて… なんて可哀想な…」

 フランソワーズは両手で顔を覆った。

「…」

 ハインリヒは無言のまま俯き、その鋼の拳に力を込めた。





――我々としても非常に残念に思う。しかし、<神>の暴走を止められるのは君達しかいない。

全ての蟠りを捨て、我々に協力して欲しい。 この惑星の未来のみならず、この銀河全体の命運を君達が

握っているのだ――






「…確かにあんたらの言う事はもっともらしい。 しかし、神を倒した後どうなる? あんたらが神

になるのか?それで何かが変わるって言うのか?? へんっ!綺麗事並べる奴等にロクなのはいねえ。

DDR(ドイツ民主共和国<旧東独>)の連中のやった事だって結局はナチと大差なかったじゃな

いか!!」

 激昂するハインリヒ。

「ハインリヒ、落ち着け!気持ちは分る…だが、今はアーリマン達を信じよう」

 ジョウはハインリヒの両肩を押え、宥めるように言った。

「ちっ、甘いんだよジョウ!お前は!!」

 その時、ジェットがハインリヒの肩に手を置いた。

「ハインリヒ… 社会からのはみ出し者や死に損ないの集まりである俺たち… おっとフランソワーズは

除くけどな。そんな俺たちが更にこんなバケモノみたいな体にされて… ちょっと前までは自分の運の

悪さをどんなに呪ったか。でもな、こいつらは言ったんだ。人間… いや、ひょっとすると多くの異星

の人たちをも救えるのは俺たちだけだって… 俺たちがそんな重大な局面で役に立つ…なんか痛快な感

じがしないか?もともと失うものなんか持っちゃいない… やろうぜ皆!」

 ジェットはそう言うとジョウに目をやってウィンクをした。

「イワン… 君はどうだ?」



(<あーりまん>タチノ思念ニハ邪悪ナモノハ感ジラレナイ… 今ノトコロハ味方ト判断シテ大丈夫

ダロウ)



「やりましょう、皆で」

 フランソワーズが自分の手をジョウの肩に置き、他の皆の顔を窺う。



 皆は無言で頷いた。

「…よし、分った」

「アーリマン、 僕らはどうすればいい?」

 ジョウが尋ねる。





――諸君らの賢明な判断に感謝する。今、予想外の反撃に会って<神>陣営は混乱している。一気に

反撃するのは今だ――





――そして、これから君達は一つの『意識群体』として昇華する――






 アーリマン達の声を聞いた後、ナンバーズ達は脳裏に侵入してくる強烈な白い光を感じ、意識を

失った。

 倒れそうになった彼らの体はゆっくりと中を舞い、地下帝国アガルタの宮殿の一室であるその場所

の奥に存在した透明なカプセル状のポッドの中に吸い込まれていった。



 ゆっくりと意識が覚醒する…。



 混沌とした数多の記憶の海… ナンバーズたちそれぞれの、そしてこの銀河の連綿と続く時の流れ

さえも… 今や、9人の自我とアーリマンは完全に一つの『意識群体』に集約されていた。





――僕達は――





――そう…今や君はジョウであり、フランソワーズであり、イワンであり、その他の仲間達で

あり、我…『アーリマン』でもある――





――高等生命の究極的進化の果て… 有限である有機体のボディという

枷から抜け出ることで、我々は真の汎銀河文明を共有する事が出来るのだ――





――あ――






 そこには『無限』という概念に限りなく近い空漠たる闇が広がっていた。

しかし、クラスター化したナンバーズ達の意識は、その遥か先に微かな揺らめきを感じていた。





――アードモ デコード… 一種の空間転位装置… 彼の地へ赴くのにスペースシップは不要だ――







 認識する映像が物凄い速さで移り変わっていく。それはポジになりネガになり、時系列さえも

あやしくなってぐるぐると巡って行く…





 オーロラってこんな感じだったけ??





 あれ?オーロラってなんだったろう?? 人間の顔が酷く歪んでいる…

あれは誰だっけ?? 思い出せない…。






 人間…? 人間ってなんだっけ??





 俺は…??おれ… お・れ・って

何だ??






 それ以降のことは認識不可能だった。









――到達した――





 彼らの意識体はアーリマン達の思念を感じて再び覚醒した。そしてゆっくりと彼らの意識の

中からアーリマンの思念が抜け出るのを感じた。





――これが??――





――そう、<神>の本拠地だ――






 漆黒の宇宙空間… 彼らの目の前には、惑星に匹敵する大きさの構造物が存在していた。





to be continued…





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