完結編を待ちつつ読みたい石ノ森萬画【コラム】


SF的視点により完結編を探る by 人参のしっぽ




■まえがき

漫画作家数あれどジャンルの幅広さにかけては群を抜く石ノ森章太郎。
まだ世間にSFという認識(当時は空想科学小説といわれていた)がない初期の頃から数多くの作品を生み出してきました。
氏が相当なSFマニアであることはもちろんですが、映画,歴史,美術にも造詣が深くあまりなじみのないジャンルを漫画という形で少年少女に紹介し続けたのは 読者にとってとても幸せなことでした。
文章にすればやたら難しい科学もの、いちばんすんなりと頭に入る方法ではないでしょうか。

できるなら全部挙げて説明したいところですが、とてもじゃないけど多すぎます。
そこで前画面の作品群を視点を変えて解説してみることにしました。
本来なら石ノ森氏が009完結編を構想されていたノート,資料類を直接読んで推測してみたい!
しかしそれは関係者でもない私達には、到底できない無理な望みです。
せめてこのコラムが皆さんそれぞれが考える<私の完結編>の参考になればとても嬉しいです。




■ストーリー構成の分類
−主人公の生い立ち、サブキャラとの絡み−



 1.[桃太郎]もしくは[かぐや姫]型

異世界から到来し普通人として生活(養父母に育てられる)

悪役登場により危機(ヒーロー変身または覚醒)

イヌ,トリ,サルを家来に(サブキャラ参加)

鬼退治(悪との対決、勝利)

or

異世界から到来し普通人として生活(養父母に育てられる)

事件発生(ヒロイン変身または覚醒)

問題勃発、正体を明かす(能力発揮で解決)

月に還る(異世界へ帰還、別れ)



 2.[南総里見八犬伝]型

主人公+サブキャラ多数存在

事件発生または各地流転(登場人物たち出会いのなかで成長)

悪役登場、危機(一致団結、抗戦)

苦難の末 撃退(敵自滅または共倒れもあり)



 3.[金太郎]型

主人公最初からヒーロー(能力抜群、無敵)

特別困難もなくスクスク成長

悪役登場、危機(ヒーロー単独で行動)

鬼退治(悪との対決、あっさり勝利)



 4.[母子もの]型

当時典型的だった '50〜'60年代少女ノベルズ,
少女漫画ストーリーでした。

主人公が苦労の末、生き別れになった母と再会する、
または主人公の影となり支える人物が実母という話筋です。
例:『母をたずねて三千里』アニメ『みつばちハッチ』

↑知ってます?
日本古典芸能なら文楽,浄瑠璃なんてのも例ですが。





石ノ森先生もご多分にもれず、初期作品にはこれらのパターンを踏まえているものがほとんどです。
また寓話や昔話,伝説等をモチーフにしたものも少なからずあります。『人造人間キカイダー』が[ピノキオ]をヒントにしたのは有名。
サイボーグ009も分類づければ<里見八犬伝型>でしょうか。




■各作品について
順不同(ネタばれあり ご注意ください)



『イナズマン』 評価【★★★★★】

サブロウが異世界(=宇宙人)の子で地球へ避難し、一般人として育てられたという もろに<桃太郎型>
ミュータントであるサブロウが侵略側ではなく地球人との融合側について敵に向かうところは生まれより育ちを取る例。
実の母親との再会もお決まりパターンってんですが、実母が敵だとはシビアな内情;;;

スケール拡げてしまった「超人戦記」編はラストの締め方が意味深です。
なんとなく新ゼロ最終回、三つ子首領とガンダール融合による破滅はこの影響受けたのかなと感じさせる。
個人的にはジロー(=キカイダー)が登場する『ギターを持った少年』までが本筋だと考えています。

機会あればDVD限定版BOX『キカイダー01/RE-EDITION』に封入 紺野直幸氏初監督のアニメ版『ギターを持った少年』をぜひご覧ください!(るなさんの石レポ参照)
完成度がすごぶる高く、必見です。ミヨッペとオリュウちゃんがラブリ〜♪
月刊「特撮エース」掲載 MEIMU氏『イナズマンVSキカイダー』もGood おすすめ作(^^)


『仮面ライダーBlack』  評価【★★★☆☆】

なぜいまさら仮面ライダーをとりあげたかというと、Blackは晩期で描かれた数少ないSF作品だから。
晩年の石ノ森氏は原案や編纂などプロデュース業が主となり、直接執筆したのは『HOTEL』『マンガ日本の歴史』ぐらいでした。
体調不良もあってか実際のところ、主要人物以外ほとんどペンは入れられなかったのではないかと思います。

Blackで注目するのは舞台が世界各地に渡り、その地の神々がモチーフになること。
神話題材は009でも多数使われています。例:『ミュートス・サイボーグ編』『エッダ編』など。
また事件よりも精神背景を重視した展開は『ディープ・スペース編』でもみられる傾向です。

完結編構想中の氏は「物語は各メンバーが主人公的な筋になる」と言われていました。この造り方、とても気になるところです。
そしてラスト。破壊と創造、支配者と挑戦者。二つの対峙は壮大な石ノ森説“神と悪魔”テーマに類しています。
「オマエは俺。俺はオマエ」(『神々との闘い編』/ジョー内面のセリフ)


『009ノ1』 評価【★★★★☆】

一読すれば近未来スパイもの。しかし石ノ森氏の本質は娯楽作品にみえてその実、意味合い深く現代への警告を含むことにあります。

主人公ミレーヌはサイボーグとはいえ、超人的な能力を誇るわけではない。任務を難なく処理してゆく様はむしろ彼女が本来持つ精神的、肉体的な部分によるものに思えます。
フリーセックスや女性解放(ウーマン・リブ)全盛な時代で作品にも反映されているがミレーヌは決して欲に溺れることなく淡々としている、そしてクールでいながらときおり弱い者にみせる温情。
この先見性ときたら現在のキャリア・ウーマンでもこうはいかない! 石ノ森真骨頂です。

また環境汚染(当時は公害と呼ばれた)や遺伝子操作による弊害、ストレス症候群や鬱病など 今では当たり前にみられる問題も数多く作品では扱われています。38年前にこれらを注目して取り上げたのだから驚き ただのSF漫画ではありません。

この先見性が完結編でならどういう形になって表れるか?
社会情勢、世界経済を敏感に嗅ぎ取り、常に先端を走った氏のことだから大きなテーマは“神と悪魔”だとしても各エピソードにはどこかに入るものと思います。もし今も御健在ならば湾岸戦争以来の中東・イラク・アラブ諸国紛争も必ず題材になるはず。

鉄腕アトムを大胆にリメイクした浦沢直樹氏『PLUTO』の様に、現代に沿ったシチュエーションで誰か描いてくれませんか…


『番長惑星』 評価【★★★★☆】

《パラレルワールド(多重世界)=位相のズレにより多次元で同一世界(地球)が存在すること》

SFではおなじみの設定。
しかし当初は「何じゃそれ???」と思いました。
この理論については作中でハカセこと左巻ツトム君がとても詳しく説明しています。あえてここで挙げる必要はないでしょう。 いやほんと、この部分だけ抜き出してSF辞典にでも収録したいぐらいです。
難解な理論や現象、史実を説明するのに漫画という手法は最適です。絵的レベルを下げれば幼児でも理解できる。
石ノ森氏はこの分野にかけても活躍され、学研や小学館などで数多くの掲載、原作原案、監修を手がけられています。
それらに使うキャラクターたちがまた魅力的でして、どうしたらあんな造形を思いつくのか… うう天才。

この作品の持つ世界観が中学生主体なのも素晴らしい!
とかく暗くて重い弱肉強食(=大人社会)理念を“少年の目”からさらりと皮肉る。
こういうのも現代に通じるテーマですねえ。ちょい『バトル・ロワイヤル』ぽくないですか。
石ノ森作品にしては珍しく(失礼!)結末に到る説明をきちんと述べていて、<拡げた風呂敷>も見事に?収まりました。
入り口を易しくした都合上、これもSF入門の道しるべでしょうか。
どの作品もこうだといいのだけれど…… (^^A;;;

サイボーグ009の終焉は私個人としては『天使編』の続きが完結編であって欲しいのです。
アニメでの『序章』だとまったく違う展開ですから、これもパラレルワールドと考えるのがいいのかな う〜ん(ーー;)

『番長惑星』はラストの締め方が静かなのですが 以後の闘いを予感させていてゾクゾクします。
派手で中途半端な結末よりも、かえって想像力がはたらきます。
強大な能力を得たリュウ、帰った“こちらの地球”で支配者になってもいいのに何事も無く日常に戻る彼。
門前で両親を想う後姿……しみじみとして好きです。


『幻魔大戦』 評価【★★★★☆】

70年代当時、絶頂の平井和正と石ノ森章太郎のコラボレーション。お互いに想像性を刺激し合う関係は双方ともに後の作品に対し、多大な影響を与えました……。

◇傾向はあったものの、より“視覚(ビジュアル),幻想的な部分を深めた石ノ森 ⇒後に『ジュン』等実験的画風へのステップ
◇キャラ設定及び進行の偏りがなくなり、文脈に厚みの増した平井 ⇒『幻魔大戦』は壮大なライフワークへと発展する。
大作『ウルフ・ガイ』シリーズにもすべからく反映。

共通するのは特有の精神世界観念と善悪に関わるキャラクターたちの人格形成。
お二方とも、そうとう深くまで話を掘り下げたのでしょうねえ…。

大型作家共作は今はそうありません。 残念なことに掲載誌が廃刊のため、続編はいずれも未完。
あーっ、どれでもいいから続きが読みたい〜 (;◇;)


『ワイルドキャット』 評価【★★★☆☆】

アダルト・ナンセンス、セクシー路線の本作品。これが完結編に結びつくのか?という方いらっしゃるでしょう。

ちゃーんと理由はあるのです。なんたってネネは「エスパー戦士」(笑)
どうして彼女が戦士なのか この際そんなこたぁどーだっていい(らしい)
元からあるものはある!(らしい;;;)
要は敵あらば、戦士となるべく者が存在するのだそうで 世界征服なのか地球侵略だかお構いなしにストーリーは突っ走ります。

ラストでエンゼル・ジョーに言わせたセリフ。内容は伏せますが石ノ森流・超能力根源解釈なのかな。
このフレーズは作者お気に入りのようで、他作品にも類似がみられます。
まさか『こんくるーじょん序章』でキーパーソンのイワンに使うとは!
やりますねぇ 脚本陣… (^^)


『千の目先生』 評価【★★★★☆】

主人公 千草先生はもちろんエスパーです。
しかし作中で彼女は能力を駆使するわけではありません。
むしろ主役は女子高生 山城夏子と松宮五月の方に思えます。
ここで重要なのは千草カオルはサイコハンターではなく、<サーチャー&リクルーター>であること。
つまりより強い素質を持つ者を探しだし、育成する超能力者の“教師”なのです。

エスパーのことはエスパーにしか解らない しごく当然のことです。
未発達の超能力者は、能力をコントロールできず自己破壊する場合が多い。
逆に力を悪用されれば大変な被害を社会に及ぼすことになります。
それらを防ぎ能力者を敵から守るのが千草カオルの役目。

さてサイボーグ009『眼と耳編』では二人の超能力者が登場します。
テレパシスト「ユウジ」に対してサーチャー「京子(に似た女)」
彼女は仲間にとユウジを誘引するが、ユウジは京子を道連れに自殺し、人員獲得は失敗に終わる。
ギルモア博士は彼女が<水脈さがしの杖=エスパー探査の道具>だったと説く。

ここでいま一度考えてみましょう。
大概にすれば001=イワンもサーチャーに当たらないか?
自らも優れたエスパーでもあるが 00ナンバーとしてBG脱出を選択し、長い時を経てメンバー達を鍛錬した結果 エキスパートESPに覚醒させた。イワンは『千の目先生』と同類、そうあてはまらないでしょうか……
メンバーをステップアップさせたイワンが打つ次なる手は一体何なのでしょう?

考えるとキリが無く、わたくし夜も眠れません (^^; ←大ウソ





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